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映画感想: クリムゾン・ピーク


『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ最新作!『クリムゾン・ピーク』予告編

 デル・トロ監督の最新作.前作のパシフィック・リムで,知名度がかなり上がった割には,上映館数は相変わらず少ない…

 パシフィック・リムは映画自体は最高だったのだけども,デル・トロ先生の怪獣特撮偏愛の部分ばっか(ちょっとスチームパンク要素もあったけど),フィーチャーされて,ただの日本怪獣特撮の理解者扱いされる感想に対しては,俺のデル・トロ先生がメジャーになってしまうとジェラシーの嵐だったわけだが(といっても,結局一部の界隈でパシフィック・リムも盛り上がっただけであった…)

そう,デル・トロ先生は怪獣特撮大好き野郎なだけじゃなくて,パンズ・ラビリンスとか,アメコミものを作ってもヘルボーイ2とか耽美的,幻想的,ゴシックな要素も大好きな大先生なんだよ!というわけで,今回はゴシック・ホラーというか,幻想,耽美,スチームパンクに,コテコテホラーと,皆の大好きなものぶち込んだ映画だ,それに怪獣は出てこないけど,ほとんど怪人みたいな人はでてくる,やったー!

 

 とりあえずデル・トロ先生の旧作を見ていて好きな人は見て損はない大好物映画でした.あとマイティー・ソーのロキ役で有名なヒドルストンが,影のあるもの悲しげだけど,そこに面白みのある味のある演技をしているので,そっち好きな人とか,風変わりな屋敷が舞台が好きな人とかおすすめ.

 というわけで,公開から間もないし,以下ネタバレあり感想

ネタバレありストーリー

序盤

 ニューヨークに暮らす,小説家を夢見る金持ちの娘のイーディス.彼女の母親は幼い時にコレラで死んでおり,時たまイーディスの前に幽霊(というか結構バケモノっぽい)の母が現れては「クリムゾンピーク」に気をつけろと,警告するのであった.そんな彼女のもとに,ある日父親に支援を求めてやってきたイギリスの貴族のシャープ姉弟が現れる.幽霊ものの小説を書くくらい夢想家のイーディスは,幼なじみ医者に好意を寄せられてるものの,自身の小説が褒めてくれたり,一緒にワルツを踊った弟のトーマス・シャープと恋に落ちる.しかしながら,成り上がり系金持ちのイーディスの父は,トーマス・シャープを思い,密かに彼の過去を探らせる.彼の過去を知った父は,シャープ姉弟に手切れ金を渡して,ニューヨークを去ることを求め,彼らもそれを了承する.が,父は何者にかによって殺され,トーマスはニューヨークに実は残っていた.反対する父がいなくなくなったこともあって,トーマスとイーディスは結婚し,トーマスの実家へと引っ越すのであった.

中盤

 引っ越し先のイギリスのシャープ家の屋敷は,屋根に穴が空いているというボロ屋敷,ここでイーディスは何度も幽霊を目にする.そして,ついにトーマス・シャープはすでに何人もの女性と結婚していること,過去の妻たちの死体が屋敷の隠されていること,トーマス姉弟が近親相姦関係にあることを知る.一方ニューヨークのイーディスの幼なじみの医師は,イーディスの父の遺体の不自然さから,シャープ姉弟を疑っており,ついに彼らが自身の両親を殺していた事実に気がつき,イーディスを助けにイギリスに向かうのであった.

終盤

 真実を知られたルーシル・シャープ(姉)は,イーディスを殺しにかかるが,間一髪(というほどでもないが)のところで,医師が現れる.イーディスを連れ帰ろうとする医師であったが,ルーシルにさっくりとやられる.しかし,本当にイーディスに惚れ込んでいたトーマス・シャープは,医師に致命傷を与えず,地下に匿い,イーディスも逃がそうとする.しかし,弟がイーディスに惚れていることに気がついた姉は逆上,最愛の弟トーマス・シャープを殺してしまう.イーディスは医師を連れて逃げようとするが,狂気に駆られた姉ルーシルが,秘密兵器大鉈を振り回しながら,追ってくる.しかし,姉の後ろに幽霊となったトーマスがいることを教えた隙をついて,スコップで撲殺し,ついにイーディスは屋敷から逃れたのであった.

 

登場人物

なように、結構ストーリーはざっくり、そして文字面にすると馬鹿馬鹿しいように思える。そして、バランス的にも、シャープ家の屋敷にいく本筋に辿り着くまでが、長すぎる感もある。やはり,この映画の魅力的なのは、登場人物と、舞台設計が、とても魅惑的だからであると思う。

イーディス

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 主役のイーディスは,小説世界に耽溺する夢見る少女で,少し美女と野獣のベルを彷彿とさせられる.物語終盤までは,ひっつめ髪で黄色いドレスを着ていたり,大人相手にでも口論するようなアクティブな女性という印象だったのだけども,物語が進むにつれて,髪を下ろして,ほぼ寝巻きだけ着ている状況になって,ホラーに登場する幸薄い少女ぽくなるのが面白い.

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 といっても最終的には,スコップで撲殺☆ミを繰り広げるわけだけど….あと本やら書類を読むときとか,時たま眼鏡をかけるかわいい.

トーマス

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 マイティー・ソーでみんな大好きロキを演じていたヒドルストンさん,今回も人を騙す役なのだけど,姉のルーシルとは秘密を共有している最愛の関係ではあるものの,彼のほうがやや被支配されている状態.イーディスに,徐々に心惹かれて,結局贖罪を含めて,姉を裏切ることに.

 字面だと,結婚詐欺師で,シスコンで,最終的に若いおなごに乗り換えた最低野郎ぽくみえるのだけども,過去の罪にとらわれている物憂げな存在感で,どちらかというと可哀想なキャラという風にみえる.あと鉱石を掘り出すために蒸気機関を開発するところなどでの溌剌加減がかわいい.

ルーシル

 

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 序盤は弟トーマスの影ように寄り添う存在感の薄いキャラの割にごついなと思っていたら,ホームの屋敷に戻ってからイーディスに対して,薄ら怪しく優しくしてみたり,突然切れてみたりと,物語のホラー要素を一身に担っている.というのも,でてくる幽霊は造形はおぞましい物の,演出によって出てくることが予想可能で,あまり怖くなかったり,実際はイーディスの味方だったりすので,この作品のホラー要素はほとんどルーシルになっている.そして終盤は袖の長い服を振り乱しなが,さながら江戸川乱歩小説にでてくる怪人のように,イーディスを追い詰めていく要素は,かっこいいやら怖いやらで...

 デル・トロ作品の一つの要素として,異形の者への偏愛というのがあると思うのだけども,今回も,このお姉ちゃんというマッドな存在への愛情をビシビシ感じました.

舞台設定

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 中盤から出てくるシャープ家のボロ屋敷は,やや小ぶりながらもゴシックホラー色全開.特に特徴的なのが,扉を開けて入った広間の屋根が綺麗に穴が空いているところ.ここから,秋は枯れ葉が,冬は雪が入り込んできて,屋敷の中に降り積もる.

 この手の屋敷系ホラーだと,庭が利用されることもあるのだけども,この設計にすることで,屋敷の中に庭が再現されているようで,物語舞台が散漫にならずよい.あとなんとなく,ホーソーンのホラー小説七破風の屋敷や美女と野獣の元ネタである夏の庭と冬の庭やなんかを思い起こさせたり.特に後者の印象で,ちょっとイーディスのベル感が増しているような気もするし,末っ子のような幼さ,本好き,黄色いドレス,母を喪失というのは,美女と野獣や及びその元ネタのグリム童話をイメージソースとしていると思われる.

The House of the Seven Gables (Illustrated) (English Edition)

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トゥルーデおばさん―グリムのような物語 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

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  ちなみに夏の庭と冬の庭のイメージだと,やっぱり諸星大二郎版の漫画が好き.なにわともあれ自分の大好物がいっぱい詰まったよい映画でした.

 

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